(未定)

雑種的な感じで

【書評とか】世界から猫が消えたら

ぶらりと立ち寄った本屋で、手に取ってみた。
何やら本屋大賞にノミネートされ、映画化も決定したものらしい。
あらすじを読むとなかなか面白そうだったので、購入して近くのカフェで読んでみた。

 

なるほど、いい本だ。
僕が好んで読む作家さんは、目が良くて、風景描写がとても上手く、文を通して色彩が伝わってくる物語を書かれるけど、この本は、あまりそういったところに凝ってはいない。読み終え調べてみたら、著者の川村元気さんは、映画プロデューサーだそうだ。

しかし、その代わりすごく直接的で、本質的で、ある種の哲学と言ってもいいようなものが沢山詰まっている。

 

話の内容はこうだ。
郵便配達として働く猫とふたり暮らしの三十歳の主人公は、脳腫瘍で医者に余命を告げられる。
絶望的な気分で家に帰ってくると、そこには自分と同じ姿をした悪魔がいる。
その悪魔は言う。
「この世界から何かを消す。その代わりにあなたは一日だけ命を得る。」
主人公の僕は、命と引き換えに、世界からあらゆるものを消していく。
電話、映画、時計・・・
その過程で、僕は、大切なことに気づいていく。

 

 

日常を過ごしていると、人は大切なモノを忘れがちだよね。
人や、物や、感情。
そして、それに気づくのは大体それを無くした時。
色んなことで後回しにして、当たり前じゃないことを当たり前と勘違いして、あるモノをずっとあるモノだと錯覚して、そうして、気付いた時には既に遅かったりして後悔する。

 

自分も、これまで、そういったことをずっと考えてきた。
考えるようになったのは、死を意識してからだ。

 

人間は、死や喪失を通して、はじめて、今を理解する。
そして、選ばなかった道の可能性や、選ぶことができた未来なんかに後悔する。
そこからの教訓もあれば、教訓も意識しなければ同じことを繰り返し、常に反芻していても間違えたりもする。
だからこそ、人は不器用で、愚かで、美しいんだけど。


でも、大切なことでも忘れてしまうのが人間の性だとしたら、
ふとしたキッカケで思い出した時には、
今存在しているものは当たり前ではなくとっても稀有なことで、いつまでも続くとは限らなくて、人はいつ死ぬか分からないのだから、
その気持ちを、しっかりと伝える事が、大事なんじゃないかなって思う。

 


昔読んだ本に出てきたフレーズを思い出した。
「なあ、勝利くん。いつか恋人ができたら、思い切り大事にしてやれよ。あの時こうしてやればよかったとか、ああ言ってやればよかったとか、あとになって後悔することのないようにな。」

 

親でも、友人でも、恋人でも。
連絡をして、感謝を伝えよう。
そして、そんなことを再確認できる、とてもいい本でした。

 

 

世界から猫が消えたなら

世界から猫が消えたなら